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インボイス制度

2割特例・3割特例・簡易課税・本則課税の違いと納税額の比較

インボイスに登録した免税事業者(個人事業主)の消費税は、令和8年分(2026年分)までは「2割特例」、令和9年分・10年分は令和8年度税制改正で新設された「3割特例」が使えます。いずれも売上に係る消費税額に2割(または3割)を掛けた額が納税額で、届出は不要です。

特例が終わった後は、簡易課税か本則課税を選ぶことになります。この記事では、各方式の仕組み、売上別の納税額の比較、届出の期限と「2年縛り」、課税事業者になる判定(基準期間1,000万円)まで、国税庁の公表情報(2026年10月7日確認)にそって整理します。

公開:2026-10-07|最終確認:2026-10-07|約6200字

消費税の計算方式は3種類(+特例)ある

課税事業者の消費税は、「売上で受け取った消費税」から「仕入れ・経費で支払った消費税」を引いて納める、という考え方が基本です。この引く金額(仕入税額控除)の出し方が、方式によって異なります。

方式控除額の考え方届出向く人
本則課税(原則)実際に支払った課税仕入れの消費税を積み上げる不要(原則)経費(課税仕入れ)が多い人、設備投資で還付を受けたい人
簡易課税売上税額×業種ごとのみなし仕入率事前の届出が必要経費が少なく、事務を簡単にしたい人
2割特例(令和8年分まで)売上税額の8割を控除(納税は2割)不要。確定申告で適用免税事業者から登録した個人(ほとんどの人)
3割特例(令和9・10年分)売上税額の7割を控除(納税は3割)不要。確定申告書にその旨を付記免税事業者から登録した個人事業者のみ

納税額が最も少なくなる方式を選ぶのが基本ですが、「届出の期限」と「一度選ぶと戻れない期間」があるため、先の数年を見て決める必要があります。

課税事業者になるのは誰か?基準期間1,000万円の判定

消費税の納税義務があるかどうかは、「基準期間」の課税売上高で決まります。国税庁のタックスアンサー(No.6501)によると、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の場合、原則として納税義務が免除されます。個人事業者の基準期間は「前々年」です。たとえば令和8年(2026年)の判定は、令和6年(2024年)の課税売上高で行います。

特定期間の判定にも注意

基準期間が1,000万円以下でも、特定期間(個人は前年の1月1日〜6月30日)の課税売上高が1,000万円を超えると、納税義務は免除されません。特定期間の判定は、課税売上高に代えて、同期間に支払った給与等の合計額で行うこともできます。前年の上半期に大きな案件があった年は特に注意が必要です。

登録すれば、基準期間にかかわらず課税事業者

インボイスの登録を受けると、基準期間の課税売上高にかかわらず消費税の納税義務は免除されません。逆に言えば、登録をしていない免税事業者は、基準期間の売上が1,000万円以下であるかぎり、消費税の申告は不要です。

2割特例・3割特例の対象になる条件

国税庁の案内では、2割特例・3割特例とも、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることが要件とされています。また、2割特例のページでは、次のような場合は適用できないとされています。

  • 基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合
  • 調整対象固定資産や高額特定資産を取得したため、免税事業者とならない事業者
  • 課税期間の特例の適用を受けている場合
  • 資本金1,000万円以上の新設法人(法人の場合)

つまり、もともと課税事業者だった人が使える特例ではありません。「インボイスの登録をきっかけに課税事業者となった」小規模な個人事業者のための措置です。

2割特例:令和8年分が最後

2割特例は、売上に係る消費税額の2割を納税額とできる制度です。国税庁は、個人事業者が適用できるのは「令和5年分(10月〜12月)、令和6〜8年分の4回」と案内しています。個人の場合、令和8年分(2026年分)の申告が最後です。

手続は簡単

届出は不要です。確定申告のときに、2割特例用の付表を使って申告します。仕入れや経費に係る消費税の集計も不要です。令和8年分の申告期限は、原則として令和9年(2027年)3月31日です(期限の取扱いは年によって異なることがあるため、国税庁で確認してください)。

計算例

税抜売上500万円の場合、売上に係る消費税は50万円(国税39万円+地方消費税11万円)です。2割特例の納税額は10万円です。

実際の計算では、売上に係る国税(7.8%分)を出して、その2割を納め、そこから地方消費税(国税の22/78)を加えます。このサイトの計算ツールは、国税を課税標準額に7.8%を掛けて算出し、納税額を100円未満切捨てにする形で計算しています。国税庁の公式の計算手順では課税標準額が1,000円未満切捨てなど細かな端数処理があるため、実際の申告では若干の差が出る場合があります。

3割特例:令和9年分・10年分の新しい特例

令和8年度税制改正で、個人事業者向けの3割特例が新設されました。国税庁の説明によると、対象は「個人事業者である適格請求書発行事業者」で、令和9年分と令和10年分の消費税申告に限って、納付税額を売上に係る消費税額の3割とすることができます(課税標準額に対する消費税額から控除する金額を、その7割とする仕組み)。

  • 対象は個人事業者のみ(法人は対象外)
  • 免税事業者が適格請求書発行事業者となったことなどにより、事業者免税点制度の適用を受けられなくなる課税期間に限り適用
  • 基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることが要件
  • 届出は不要で、確定申告書にその旨を付記する

2割特例よりは負担が増えますが、簡易課税(サービス業なら5割相当)や本則課税よりは軽い水準が維持されます。

令和9年分から納税額の水準が上がります。免税事業者のまま令和9年以降に登録する人も、3割特例が使えます。ただし、令和11年分以降は特例がありません。簡易課税か本則課税での納税になることを前提に計画してください。

簡易課税:事業区分とみなし仕入率

簡易課税は、売上に係る消費税額に「みなし仕入率」を掛けて、仕入れに係る消費税額とみなす方式です。国税庁(タックスアンサーNo.6505)によると、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が選べます。事業の種類ごとのみなし仕入率は次のとおりです。

区分主な業種みなし仕入率納税額(売上税額に対する割合)
第1種卸売業90%10%
第2種小売業、飲食料品の農林漁業80%20%
第3種製造業、建設業、農林水産業(第2種以外)等70%30%
第4種その他の事業(飲食店業など)60%40%
第5種運輸通信業、金融業・保険業、サービス業(飲食店業を除く)50%50%
第6種不動産業40%60%

デザイン、ライティング、動画編集、プログラミングなどのサービス提供は、一般に第5種(みなし仕入率50%)に当たります。ただし、物の製造や加工を伴う場合など、区分が変わるケースもあります。判断に迷う場合は、国税庁のタックスアンサーや税務署の案内で確認してください(区分は事業の実態で決まります)。

簡易課税のメリットと注意点

  • 経費の領収書やインボイスを集計して消費税を計算する必要がありません。
  • 経費が少ない業種では、本則課税より納税額が少なくなることがあります。
  • 反対に、設備投資などで課税仕入れが多い年でも、還付は受けられません。
  • 複数の事業を営む場合は、事業ごとに区分して計算します。

本則課税(原則):実額で計算する

本則課税は、売上に係る消費税から、課税仕入れ(経費、仕入れ、設備投資など)に係る消費税の実額を引く方式です。仕入税額控除を受けるには、帳簿と請求書等(インボイスなど)の保存が必要です。免税事業者からの仕入れについては、経過措置により一定割合を控除できます(令和8年10月から70%など)。

本則課税が有利になるのは、課税仕入れの割合が、簡易課税のみなし仕入率や特例の控除率(2割特例は80%、3割特例は70%)を上回る場合です。サービス業(第5種50%)なら、売上の半分以上が課税仕入れ(外注費、仕入れ、設備など)でなければ、簡易課税のほうが有利になります。

一方、給与や保険料、利子などの非課税取引や不課税取引は課税仕入れに含まれません。個人事業主のフリーランスの経費は、通信費、広告費、ソフトウェア、外注費など課税仕入れの割合が高いものもありますが、売上の半分を超えるケースは多くありません。

年間売上別の納税額を比較する(税抜売上300万・500万・800万・1,000万円)

課税仕入れ(経費のうち消費税がかかるもの)を税抜売上の20%と仮定し、第5種(サービス業)の簡易課税として、納税額(国税+地方消費税)を比べます。税率は10%(国税7.8%+地方2.2%)です。この表は、このサイトの納税資金積立ツールと同じ計算式を node で実行して検算した数値です。

税抜売上(年)課税仕入れ(仮定20%)2割特例3割特例簡易課税(第5種)本則課税
300万円60万円6万円9万円15万円24万円
500万円100万円10万円15万円25万円40万円
800万円160万円16万円24万円40万円64万円
1,000万円200万円20万円30万円50万円80万円

経費の割合を変えると、本則課税の数字が変わります。たとえば課税仕入れが売上の50%(500万円の売上で250万円)なら、本則課税の納税額は25万円となり、簡易課税(第5種)と同額です。50%を超えれば、本則課税が有利になります。

事業区分を変えた場合の簡易課税

同じ売上で、事業区分が異なる場合の簡易課税の納税額も参考として示します(国税+地方消費税)。

税抜売上(年)第1種(90%)第2種(80%)第3種(70%)第4種(60%)第5種(50%)第6種(40%)
300万円3万円6万円9万円12万円15万円18万円
500万円5万円10万円15万円20万円25万円30万円
800万円8万円16万円24万円32万円40万円48万円
1,000万円10万円20万円30万円40万円50万円60万円

第2種は2割特例と、第3種は3割特例と同じ水準です。サービス業(第5種)や第6種は、特例のほうが大幅に有利であることが分かります。逆に、第1種(卸売)だけは、簡易課税が2割特例より有利です。

実際の納税額は、売上の税抜・税込の区別、課税仕入れの額、端数処理で変わります。自分の数字を入れて試算するなら、インボイス登録シミュレーターが便利です。

令和8年〜11年以降、どの方式を選ぶ?年別の考え方

年分使える方式(免税事業者から登録した個人)サービス業の目安
令和8年分(2026年)2割特例/簡易/本則2割特例が有利になりやすい
令和9年分(2027年)3割特例/簡易/本則3割特例が有利になりやすい
令和10年分(2028年)3割特例/簡易/本則3割特例が有利になりやすい
令和11年分(2029年)以降簡易/本則経費率で選ぶ(課税仕入れが売上の半分未満なら簡易)

令和10年分までは、特例の適用を続けるのが納税額としては最も軽くなります。令和11年分から簡易課税に移るなら、届出の期限を逃さないことが大切です。

届出の期限と「2年縛り」

簡易課税選択届出書

国税庁(No.6505)によると、簡易課税を適用したい課税期間の初日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。個人事業者なら、翌年から簡易課税にしたい場合、12月31日までに提出する必要があります。

2割特例・3割特例からの移行の特例(令和8年度改正)

通常は、簡易課税を使いたい年の前日までに届出が必要です。令和8年度税制改正では、2割特例または3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間について、その翌課税期間の申告期限までに届出書を提出すれば、その翌課税期間から簡易課税を適用できるという移行措置が設けられました。弥生など民間の解説では、令和8年分で2割特例を適用した場合、令和10年3月31日までに届出をすれば令和9年分から簡易課税の適用を受けられる、と説明されています。具体的な適用条件の詳細は、国税庁の特集ページで確認してください。

2年縛り

簡易課税には、いわゆる「2年縛り」があります。国税庁は、簡易課税の適用を受ける事業者は、届出の効力が生じる課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、簡易課税をやめる届出(不適用届出書)を出せない、と案内しています。たとえば令和9年分から簡易課税を適用した場合、令和9年分・10年分は継続して適用され、やめる届出は令和10年中に提出する、という形になります。

「とりあえず簡易課税にして、翌年にやめる」ことはできません。経費が増える年(大きな設備投資など)がある場合は、そもそも簡易課税の届出を出すべきかを慎重に検討しましょう。

登録そのものにも「戻れない期間」がある

国税庁の資料によると、免税事業者がインボイスの登録を受けた場合、登録日以後2年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間は、課税事業者になります(令和5年10月1日を含む課税期間に登録した場合は適用されないと案内されています)。登録を取りやめるための届出も、課税期間の初日から数えて15日前の日までに出す必要があります。

よくある失敗と注意点

  1. 売上に含まれる消費税を使い込む:翌年3月末の納税時に資金が足りなくなります。納税資金の積立目安ツールで、所得税・住民税・国保とあわせて積立額を確認しましょう。
  2. 簡易課税の届出を忘れる:特例が終わった後に簡易課税へ移るなら、期限内の届出が必須です。
  3. 設備投資の年に簡易課税にしてしまう:還付が受けられず、損になる場合があります。2年縛りもあるので注意。
  4. 事業区分の誤り:第5種か第4種かで、納税額が約1.25倍(売上税額の4割と5割)違ってきます。事業の実態に沿って区分します。
  5. 特定期間の売上を見落とす:前年前半の売上が1,000万円を超えると、翌年は課税事業者になります。
  6. 中間申告の要否を確認しない:前年の納税額によっては中間申告が必要になる場合があります。要件は国税庁で確認してください。

売上に含まれる消費税の金額感と、手取りへの影響

免税事業者は、売上に含まれる消費税を納税せず、そのまま所得に含めていました。登録すると、この一部を納税します。税抜売上500万円、経費率30%(課税仕入れは税抜100万円)の個人事業主が、令和8年分に2割特例を使うと、納税額は10万円です。所得税・住民税は、売上から経費を引いた所得に対して別途かかります。消費税の納付額は、経費(租税公課)として扱われるかどうかが経理方式(税込経理・税抜経理)で変わります。細かい扱いは税務署や税理士に確認してください。

このサイトの税金・手取り概算ツールは、所得税・住民税・社会保険料を含めた手取りの目安を計算できます。消費税の負担分は、別途引いて考えてください。

このサイトの記事・ツールの限界

  • 各方式の説明は、2026年10月7日時点で確認できた国税庁の公表情報にもとづきます。確認できなかった点(移行措置の細かな適用要件、申告書の記載方法など)は「国税庁で確認」としました。
  • 納税額の表は、課税仕入れを税抜売上の20%と仮定した例です。実際の仕入れ・経費の額で変わります。
  • 国税庁のもとの計算式では、課税標準額の1,000円未満切捨てなどの端数処理があります。このサイトの数値は100円単位の概算です。
  • 特例の判定(基準期間、調整対象固定資産の有無など)は、個別の状況で結論が変わることがあります。迷う場合は、税務署や税理士に相談してください。

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本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の税務・法律相談ではありません。制度は改正されることがあるため、実際の判断は国税庁などの公式情報や、税理士などの専門家にご確認ください。